異世界転移料理人は、錬金術師カピバラとスローライフを送りたい。ex.1:高血圧症の青年と味わいご飯
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ご覧いただきありがとうございます。 Web掲載 「異世界転移料理人は、錬金術師カピバラとスローライフを送りたい。」 の番外編 「高血圧症の青年と味わいご飯」 です。 高血圧になってしまった青年。主人公の料理人浅葱と青年が味わいの癒しご飯を作ります。 ・文庫サイズ/40ページ ・SSのおまけ付き 本編の小説はこちら。 https://www.pixiv.net/novel/series/1110760(Pixiv) https://ncode.syosetu.com/n4853fg/(なろう) https://www.alphapolis.co.jp/novel/773393922/57263476(アルファポリス) https://kakuyomu.jp/works/1177354054889338388(カクヨム)
▼おためし読み
天田浅葱は今日もカロムと連れ立って、村で買い物である。昼食を終え、太陽が少し西に傾いた頃。村人のほとんどが仕事中や学校で、中心地でありながら商店周辺の人の流れは緩やかだ。さて、今日の夕飯は何にしようか。 そうだな、焼いた魚が食べたいな。ならムニエルだろうか。塩こしょうをした白身の魚に小麦粉を薄くはたき、たっぷりのオリーブオイルとバターでふっくらこんがりと焼き上げて、レモンの酸味を効かせたソースでいただくのはどうだろう。 魚の商店を覗くと、透明感のある眼を輝かせ、艶々としたうろこをまとった魚がずらりと並べられている。海が近い村なので、さすがの鮮度だ。 「ああ、そりゃあ良いな」 カロムも賛同してくれて、さてどの白身にしようかと眼を凝らしていると、隣の惣菜の商店からこんな会話が聞こえて来る。 「美味しそうですねぇ」 「そりゃあうちの惣菜は美味しいさ! けど、セオドアはアントン先生に外食や惣菜は控える様に言われてるんだろう?」 「そうなんです。だから十日に一度の楽しみにしてるんです。でも今日はその日じゃ無いから駄目なんですよねぇ……」 とても残念そうな男性の声。浅葱がちらりと視線を向けると、ずらりと並べられた色とりどりの美味しそうな惣菜を前に、若い痩身の男性がしょんぼりとうなだれていた。 男性ははぁとひとつ憂鬱そうな溜め息を吐くと、「また今度来ますね」と力無い声で言い、惣菜屋を離れふらりと向こうに歩いて行った。 「ねぇカロム、あの男の人」 横のカロムに声を掛け、行儀が悪いと思いながらも立ち去った男性の背中を指差す。 「ああ、セオドアか。どうかしたか?」 「アントン先生に外食とかを控える様に言われてるって言ってたんだけど、何か持病とかあるの?」 「ああ、どうなんだろうな。訊いてみるか? おーい、セオドア!」 男性、セオドアはカロムの呼び掛けに気付き、ゆっくりと振り向いた。 「ああ、カロムじゃ無いか。何だか久しぶりだなぁ」 のんびりとそう言って柔らかな笑顔を浮かべる。カロムも「よぉ、久しぶり」と片手を上げながらセオドアに近付いて行く。浅葱も付いて行った。 「アサギくんも、こんにちは」 「こんにちは」 浅葱はまだ村人全員を把握出来ていないが、浅葱の事は村人全員が知っているのだ。それは浅葱が錬金術師の助手と言う肩書きである事と、以前村人に料理を振る舞った事があるからである。 あらためてセオドアを見ると、ひょろりと高い背はカロムよりあるかも知れない。細面で眼と唇もすっきりと細い。不健康そうにも見えるが、肌の浅黒さがそれを緩めていた。 そしてゆったりとした話し方からしても、穏やかそうな印象ではある。カロムと気安く会話をしている事からして、年齢は同じぐらいなのだろう。 「セオドア、お前アントン先生に外食とか控える様に言われてるのか?」 カロムの率直な問いに、セオドアは「あ、ああ〜……」と苦笑する。 「俺、他の人より血圧が高いんだよ。だから塩を控える様に言われててねぇ。食堂とか惣菜屋のご飯は普通に塩使ってるだろう? だから良くないって言われたんだよねぇ」 浅葱は密かに驚く。高血圧症は高齢者の病気という印象があったからだ。ただそれはあくまで割合の問題で、若者だって罹患するのだ。 ただ浅葱の記憶によると、若年性高血圧症は腎臓病などが原因である事があったはずだ。それは大丈夫なのだろうか。しかしアントンがそれを見逃す事は無いと思うので、浅葱が心配する事では無いのだろう。 「だから十日に一度の楽しみにしてるんだよ。今日はその日じゃ無いけど、昼ご飯これからでお腹が空いてねぇ、惣菜が美味しそうで美味しそうで、つい立ち止まっちゃった」 セオドアはそう言って、また苦笑い。 「じゃあ普段の飯はどうしてるんだ? ひとり暮らしだろ。あ、アサギ、セオドアは他の街からひとりで移って来たんだ。騒がしい街じゃ無く、村でゆっくり暮らしたいって言ってよ」 なるほど、印象通りに穏やかな性格なのだろう。 「仕方が無いから自分で作ってるよ。でも俺料理が上手じゃ無いから、毎日味気ないご飯を食べてるよ。本当に塩のありがたみをしみじみ感じる毎日なんだよねぇ」 セオドアは言って、また憂鬱そうに小さく溜め息を吐いた。 「こんな事になるなんて思ってもみなかったから、ひとり暮らしでも食事は食堂とか惣菜でどうにかなると思っていたんだよねぇ。家で作るにしても、塩とこしょうがあればどうにでもなると思って。でもその肝心の塩を控えなきゃならないんだから、どうにもならなくて。あぁあ、家を出る前に、もっとちゃんと親に料理を習っておけば良かったなぁ」 セオドアは言い、また溜め息をひとつ。浅葱とカロムは顔を見合わせる。 「なぁアサギ、これこそアサギの本領発揮じゃないか?」 続きはぜひ本でご覧くださいませ。よろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)